第一章・曖昧な職員たち

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「ありがとう……助かった」 「いえ……間に合って良かったです」 フェンの腹の傷は完治してはいないが、動くことすらできなかった状態から瞬時に立ち回れるまで回復していた。 フェンは元々の体力が少ないため、小さなダメージでも致命傷になりがちだが、それは逆に言えば小さな回復魔法でも大きな効果があるということでもある。 「あれは……ソルトコボルト……だね。ハーフェンの魔物……あたしの実家の近くにも住んでたから知ってる。塩を大量に持ち歩く習性があって、人間は襲わないはずなんだけど……」 「知識では知っていましたけど、実物は見たことがありませんでした……つまり、あの樽の中身が全て塩……重そうですね」 「利用しない手はないかな」 相手は経験豊富であるものの所詮はコボルト、マグナの高火力魔法ならば一撃で仕留められるが、問題はかわされてはダメージが入らないことである。 マグナが防御魔法を解除すると、岩の壁がバラバラに崩れ、そのまま砂の粒になって風に消えていく。 「『マッドシャワー』!」 その瞬間、マグナは上げた手を振り下ろすようにして魔法を放ち、巣穴に向かって重たい泥の雨を降らせた。 やはりまだそこにいたソルトコボルトは雨の隙間を縫うように上手く回避したが、しかし地面に残っていた泥に脚をとられ、バランスを崩して樽の重さに引っ張られ尻餅をつくように転んでしまう。 この魔法は攻撃ではなく、あくまで泥で移動速度を低下させるためのもので、ダメージはないものだったのだ。 「トドメです。『ロックブラスター』」 そしてマグナが詠唱と共に小さな両手を前にかざすと、マグナ自身も反動で後退るほどの巨大な岩の弾丸が放たれ、ソルトコボルトは一撃で沈んだ。
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