第二章・日常は喫茶店から

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「あたしの力で、どうにもならないなら……こうするしかない。『レッドナックル』!!」 フェンは力を溜め、炎を宿した拳をそのまま地面に叩きつけた。木製の船に火が付き、瞬く間に燃え広がり、部屋は炎に包まれてゆく。 しかし、誰も燃えることはなかった。船自体も、一見火が広がってはいるが、全く灰になる気配がない。 「よし、上手くいった!」 フェンは拳に普通の炎ではなく、癒しの炎を纏わせていたのだ。回復魔法で発生したものではないため癒す効果はほぼないが、傷付けることもない。 これにより、船に火が付いている状況だけが作り出された。 「これなら、通りかかった人が異常に気づくはず……っ」 フェンは唇を噛み締め己の無力さに悔しさを滲ませつつも、自身の能力を過信せず、その場で出来ることを選択した。 海の側で船が燃えているとなれば、水を嫌いがちな炎の魔物のせいである可能性も比較的低く、通行人が不審に思いカンパニー職員へこの状況を伝えてくれるはず……そうフェンは考えたのだった。 「お願い、誰か……マグナちゃんを助けて……っ!」 藁にもすがる気持ちで祈るフェン。彼女は今にも泣き出しそうなほど悲痛な思いだった。 その時、力強い声が聞こえた。 「待たせたなっ!!」 「……!」
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