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人が多いから離れないように手を繋ぎ、様々なものを見て回り、喧騒の中でも二人だけの穏やかな時間が過ぎていくのだろう。それは幸福と思える瞬間に違いあるまい。遊園地でも水族館でも、どこだってきっと彼女となら同じ気持ちが得られるのだろうと思った。
「たまにはそういうところもいいよね」
彼女はそこはかとなく楽しそうにしている。まだ行くと決まったわけでもないのに、すでに目的は果たされたかのようだ。
「久しぶりに行ってみたいね」
「ね!」
「じゃあどっちも行こうよ」
「どっちも?」彼の冗談に彼女は真に受けたのか、一瞬虚を衝かれたかのような表情を顕にした。「今日?」
「さすがにそれは厳しそう」
彼は微笑みながら答えた。
「だよね。びっくりした」
「でも嘘でもないよ。次会うときは今日行けなったところに行こうよ」
「それ賛成!」
「じゃあ、まずは今日はどっちに行こうか」
「それじゃあ――」
彼女は行き先を告げると、彼は即応した。これから楽しい出来事が数多にも待ち受けている期待と、だがそれに反して時間の流れを惜しむ気持ちも芽生えつつあった。
好きな人と話し合った場所も時間も、それらは他愛のないものだった。だがすでに彼の心の中ではこの瞬間が掛け替えのない大切な思い出になっていた。
何の思い入れもなかったこの場所が、忘れられない特別な時間を過ごした証となっていく。
そうしてここがどこかへと変わっていく。
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