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そしてその、翌日。
「百合。お前の好きなプリン、買ってきたで~!」
彼が白いチープなコンビニのビニール袋を片手に、笑顔で言う。
私はただ無感情な視線を彼に向け、答える。
「いらない。
…どうせ何を食べても、味なんかしないもの。」
それを聞いた佐藤さんは、悲しそうに微笑んだ。
そんな彼の姿を見て、少しだけ胸が痛んだ。
「…そんな事言わんと、一口だけでも食べなあかんで。
…どうせ今日も、殆ど食うとらへんのやろ?」
彼が、心配そうに言った。
私はそれには答えずに、手元にあった小説に視線を戻した。
なんでこの人は、こんなにも『いい人』なんだろう?
私の事なんか放っておいて、さっさと他の女の子を探せばいいのに。
内心かなりげんなりしながらも、無言で本を読み続ける。
彼はその間も、椅子に座って心配そうに私の事を見詰めている。
「もう、帰っていいよ?
…別にあなたが、責任を感じる事じゃないから。」
そう。これは別に、彼の所為じゃない。
あんなにも優しく私の事を愛してくれた佐藤さんの事を、結局最後まで信用出来なかった、私の心の問題だ。
彼は何も答えずに、ただ私の事を見詰め続ける。
私はそれに気付きながらも、ひたすら小説のページを捲っていく。
「百合はほんまに、本が好きやな。
お勧めの本があったら、教えてよ。」
彼が、笑顔で言った。
「…小説なんか、読まない癖に。
無理しなくて、いいわよ。
…はっきり言って、うっとおしい。」
心から、言った。
でも最近は、こんな私の可愛くない発言にも慣れてきたのか、佐藤さんはクスクスと笑い、言った。
「うっとおしいって…。
ほんまにお前は、毒舌やな。
まぁ、ええよ。
最近ずっと見とったから、百合の好きな作家とか、なんとなく分かってきたし。」
私はまた無言のまま、ページを捲る。
彼は可笑しそうに笑い、そんな私の側に腰を下ろした。
あれから更に、一週間が経過した。
私はもう退院して、自宅でのんびりと毎日を過ごしている。
体調不良を理由に会社をやめ、ただ黙々と本を読み続ける。
仕事帰りに彼はふらりと家にやって来て、何をするでもなくただ私の側にいる。
こんな毎日がここ最近、ずっと続いている。
会話をするでもなく、お互いに触れるでもなく。
…ただ無言のまま、時間を共有する。
それが心地いいのか、悪いのか。
…それすらももう、私には分からない。
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