あなたなんか。

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「…なんでちゃんと、こんなんなる前に言うてくれへんかったん? 」 彼が、真っ青な顔で聞いた。 私はクスリと笑い、答えた。 「…なに、それ?  もしかして、同情してくれてるの?  …馬鹿みたい。」 「…ほんまに、ごめん。  もう一回、やり直そう?」 彼は、泣きそうな表情で言う。 私はその言葉が可笑しくて、ただ笑った。 「お願いだから、帰ってよ。  …あなたなんか、もう好きじゃない。」 切欠は、本当に些細な事だった。 彼が、会社の女の子から相談を受け、二人で食事に出掛けた事。 だけど私は、それがどうしても嫌で、彼に詰め寄った。 いつもなら彼が、心配するなって、言ってくれて。 優しく私を抱きしめてくれて、キスをしてくれる。 …それで、お終い。 なのにあの日、彼はそうしてくれなくて。 …私に、別れの言葉を告げた。 「結局お前は俺の事なんか、これぽっちも信用してへんのやろ?  もう、限界やわ。…百合、終わりにしよう。」 その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中は真っ白になった。 だけど素直じゃない私は、彼に縋りつく事も、愛の言葉を告げる事も。 …泣く事すらも出来ず、彼の後姿を見送った。 それから、約2週間が過ぎて。 …私は今、検査入院の為、点滴を打たれながら病院のベットの上にいる。 佐藤さんと別れてから、私は味覚というものを殆ど失ってしまった。 何を食べても、美味しいとは感じない。 そうなると食べるのも億劫で、私は次第に食事を口にしなくなっていった。 そして、殆ど眠る事も出来なくなって。 …本当にどうしようもない程、ボロボロになってしまった。 情けない程、彼に依存していた自分。 改めてそれを、思い知らされた。 だからと言って、彼の事を引き留めたくて、私が連絡した訳ではない。 …共通の友人が、佐藤さんにこの事を密告したのだ。 そんなお節介、誰も望んでなどいなかったのに。 そんな事をしたら、優しい佐藤さんが私を放っておける筈もなく。 …愛もないのに、こうして私の側に居てくれているという訳だ。 ホントもう、うんざりだわ。 …こんなの、嬉しくもなんともありゃしない。
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