あなたなんか。

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佐藤さんは私を強く抱きしめたまま、小さな声で、呟くように答えた。 「…そんなん、違うよ。  百合が俺の事を信じてくれるまで、もう一回好きになってくれるまで、待とうと思った。  …でもお前が、そんなん言うから。」 ただぼんやりと、彼の顔を見詰めた。 彼は困った様に微笑み、続ける。 「別に俺、お前が言う程ええヤツとちゃうよ?  ただ百合の事が、やっぱり好きやから。  …今言うても、百合、絶対信じてくれへんと思たから、言わへんかったけど。  百合は俺の事、やっぱり許せへん?  お前の事、絶対裏切らへんって言うたのに、結局別れようって言って。  …俺の事、信じろって言うたのに、勝手に逃げ出して。」 視界が徐々に、ぼやけていく。 「また、泣く…。  ほんまにお前は、どんだけ泣き虫やねんっ!」 そして佐藤さんは、笑った。 呆れたように、でもとても優しい表情で。 「うるさいっ!  佐藤さんが、そんな事言うからじゃんっ!!」 私はまた、憎まれ口を叩く。 彼はそんな私を見て、可笑しそうに笑った。 「百合を不安にさせる様な事、もうせぇへんから。  今度はもっとちゃんと、大切にするから。  ...だからもう一回、俺と付き合って。」 彼が、真剣な表情で言う。 私はその言葉を聞き、小さく頷いた。 「せっかくもう、手放してあげようと思ったのに。  …後で後悔しても、知らないから。」 佐藤さんは嬉しそうに、子供みたいな表情で笑った。 私もそんな彼の笑顔を見て、泣きながら笑った。 そして彼の、腕の中。 私は薬に頼ることなく、久しぶりに深い眠りについた。                …Fin
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