第6章 RING

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104 ケジメ…3  静かになった室内に、辻の苦し気な息遣いだけが響く。  廉司は実に寛いだ様子で煙草を一本楽しみ、吸殻を灰皿で丁寧に揉み消した。  いつからかはわからないが、建物の外がガヤガヤと騒がしい。  辻に銃を向けたまま、机上の固定電話を引き寄せた。  床に血液がぽたりと落ちる。あまりゆっくりとはしていられない。  廉司の目に促されるまま、辻は受話器を手にした。 「……誰に、掛けるんだ」 「警察(サツ)だ」  目を丸くした辻の太腿に空いた穴を上から踏みつける。  痛みに飛び上がった男の手から受話器が落ちる。本体と繋がるコードが伸びて、床に落ちることなく右へ左へぶら下がる。  廉司は全く気にしない様子で、口元の血を拭った。 「しょ、正気かお前っ!」 「あぁ?」 「こんな事で捕まったら組が無くなるっ。ウチだけじゃねぇぞ!飛廉もだ!」 「ゴチャゴチャうるせぇな」  今度は首筋に掠るように引き金を引く。  大きな音と共に辻が座る椅子の背もたれに穴が空いた。  外が騒めく。やはり大勢集まっているらしい。  辻の後退しかけている前髪を掴み、今一度銃口をこめかみに押し付ける。  音が鼓膜に届くよう、ゆっくりと撃鉄を起こす。 「サツを呼べ」  額を汗で光らせながら、辻が数回頷いた。  慎重に受話器を取り上げ、ダイヤルボタンを押す。  呼び出し音が鳴る。男の声が応えた。  人質に取られ、立てこもられていることを辻が告げると、電話口の男はすぐ別の部署に回した。悪戯だと思われなかったのは、外で騒いでいる見物人のせいだろう。  新しい人間が出た。辻が辛そうな目で見上げる。 「『要求は何だ』と」 「SITだ」 「シット?」  滝のように汗を流しながら辻が怪訝な表情を浮かべる。もう一度痛めつけるようなことはせず、正確に言葉を伝えさせる。  辻は生まれて初めて耳にした言語をリピートするように、忠実に唇を動かした。 「『捜査一課特殊班の渓一花を連れてこい』」  辻が無事に務めを果たしたのを見届けて、廉司は血の混じった唾を床に吐き捨てた。
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