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104 ケジメ…3
静かになった室内に、辻の苦し気な息遣いだけが響く。
廉司は実に寛いだ様子で煙草を一本楽しみ、吸殻を灰皿で丁寧に揉み消した。
いつからかはわからないが、建物の外がガヤガヤと騒がしい。
辻に銃を向けたまま、机上の固定電話を引き寄せた。
床に血液がぽたりと落ちる。あまりゆっくりとはしていられない。
廉司の目に促されるまま、辻は受話器を手にした。
「……誰に、掛けるんだ」
「警察だ」
目を丸くした辻の太腿に空いた穴を上から踏みつける。
痛みに飛び上がった男の手から受話器が落ちる。本体と繋がるコードが伸びて、床に落ちることなく右へ左へぶら下がる。
廉司は全く気にしない様子で、口元の血を拭った。
「しょ、正気かお前っ!」
「あぁ?」
「こんな事で捕まったら組が無くなるっ。ウチだけじゃねぇぞ!飛廉もだ!」
「ゴチャゴチャうるせぇな」
今度は首筋に掠るように引き金を引く。
大きな音と共に辻が座る椅子の背もたれに穴が空いた。
外が騒めく。やはり大勢集まっているらしい。
辻の後退しかけている前髪を掴み、今一度銃口をこめかみに押し付ける。
音が鼓膜に届くよう、ゆっくりと撃鉄を起こす。
「サツを呼べ」
額を汗で光らせながら、辻が数回頷いた。
慎重に受話器を取り上げ、ダイヤルボタンを押す。
呼び出し音が鳴る。男の声が応えた。
人質に取られ、立てこもられていることを辻が告げると、電話口の男はすぐ別の部署に回した。悪戯だと思われなかったのは、外で騒いでいる見物人のせいだろう。
新しい人間が出た。辻が辛そうな目で見上げる。
「『要求は何だ』と」
「SITだ」
「シット?」
滝のように汗を流しながら辻が怪訝な表情を浮かべる。もう一度痛めつけるようなことはせず、正確に言葉を伝えさせる。
辻は生まれて初めて耳にした言語をリピートするように、忠実に唇を動かした。
「『捜査一課特殊班の渓一花を連れてこい』」
辻が無事に務めを果たしたのを見届けて、廉司は血の混じった唾を床に吐き捨てた。
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