番外編2 「欲しい?」

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 夏目に言われるがまま戻った屋敷は、何かがおかしかった。  心配そうな表情で出迎えた甲本に連れられて向かったのは、階段下の物置き。  階段の傾斜に合わせて作られたドアに中から鍵が掛かっている。  薬局の袋を下げた夏目が甲本に経緯を訊ねた。 「若がお出かけになられた後、すぐです。『廉司さんは?』と聞かれたので『今朝は早めに出かけられましたよ』とお答えしたら、なんだか」 「なんだか?」 「急に泣きそうな顔をされて、それから、ずっと――」  ドアをノックしてみる。反応はない。  聞き耳を立ててみる。微かに鼻を啜る音が聞こえる。 「一花。一花、どうした?」 「……一花さん、寝間着のままなんです。まだ三月ですよ?風邪をひいてしまう……」 「一花、出てこい。何か言いたいことがあるのか?」  乱暴にドアノブを回す。  一花が言いたいことは分かってる。本当は聞きたくない。  でも、こんな事で一花との間に溝が出来るのは耐えられない。  いつまでたっても開かないドアがもどかしくて体当たりしてみる。  大きく軋んだ階段に、夏目と甲本が慌て出した。 「若!ちょっ、危なっ」 「それ以上やったら壊れてしまいますよっ」 「壊してんだよ、見りゃわかるだろっ」 「一花さんが怪我でもされたらどうするんですかっ!」 「ぐっ……、おい、一花!さっさと開けろ!言いたいことがあるなら目を見て言え!いい加減にしねぇとマジでこのドアぶち壊すぞっ!」  夏目と甲本に羽交い絞めにされながら怒声を上げて、暫く。  カチャ……と、中から小さな音がして鍵が開いた。  二人の腕を振り解き、乱れたスーツを整える。  ドアノブに手をかけた俺に、甲本が不安そうな声を上げた。 「わ、若……乱暴なことは」 「んな事するかよ。あっち行ってろ」  心配そうな二人を尻目にドアをくぐり、後ろ手に鍵をかけた。
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