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夏目に言われるがまま戻った屋敷は、何かがおかしかった。
心配そうな表情で出迎えた甲本に連れられて向かったのは、階段下の物置き。
階段の傾斜に合わせて作られたドアに中から鍵が掛かっている。
薬局の袋を下げた夏目が甲本に経緯を訊ねた。
「若がお出かけになられた後、すぐです。『廉司さんは?』と聞かれたので『今朝は早めに出かけられましたよ』とお答えしたら、なんだか」
「なんだか?」
「急に泣きそうな顔をされて、それから、ずっと――」
ドアをノックしてみる。反応はない。
聞き耳を立ててみる。微かに鼻を啜る音が聞こえる。
「一花。一花、どうした?」
「……一花さん、寝間着のままなんです。まだ三月ですよ?風邪をひいてしまう……」
「一花、出てこい。何か言いたいことがあるのか?」
乱暴にドアノブを回す。
一花が言いたいことは分かってる。本当は聞きたくない。
でも、こんな事で一花との間に溝が出来るのは耐えられない。
いつまでたっても開かないドアがもどかしくて体当たりしてみる。
大きく軋んだ階段に、夏目と甲本が慌て出した。
「若!ちょっ、危なっ」
「それ以上やったら壊れてしまいますよっ」
「壊してんだよ、見りゃわかるだろっ」
「一花さんが怪我でもされたらどうするんですかっ!」
「ぐっ……、おい、一花!さっさと開けろ!言いたいことがあるなら目を見て言え!いい加減にしねぇとマジでこのドアぶち壊すぞっ!」
夏目と甲本に羽交い絞めにされながら怒声を上げて、暫く。
カチャ……と、中から小さな音がして鍵が開いた。
二人の腕を振り解き、乱れたスーツを整える。
ドアノブに手をかけた俺に、甲本が不安そうな声を上げた。
「わ、若……乱暴なことは」
「んな事するかよ。あっち行ってろ」
心配そうな二人を尻目にドアをくぐり、後ろ手に鍵をかけた。
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