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100 一人、歩きながら…2
吐く息が白い。
夏目が作った粥は半分も口にしていない。
胃を温めてくれるものが無い。中心に穴が空いているみたいだ。
週末なのか、人通りが多い。
笑顔で腕を組みながら通り過ぎていくカップルもいる。
自分は一花とああいう風になりたかったのだろうか。
「ハッ!まさか」
思わず噴き出した。近くを歩いていた人間がぎょっとした目をして避けていく。
(一花と笑って腕組みなんて、それこそ夢だ)
しかし、ふと自分の手を見て思い出した。
あのショッピングモールで、自分は一花と手を繋いで歩いたではないか。
いくつも言葉を交わした。笑みを零したこともあったはずだ。
あの時の満たされた想いはどこへいったのか。
自分がこんなにも欲深い人間だと思い知らされるくらいなら、いっそはじめから――
胸から何かがせり上がってきて咄嗟に体を折った。
しばらくじっとして、押し寄せてくる波をやり過ごす。
鼻でゆっくり呼吸をし、上体を起こす。波が退いたのを確認してから再び歩き始めた。
立ち並ぶ店の換気扇からいろいろな料理の匂いが漂ってきて人混みに混ざる。
この時間、この活気、この空気。
いつもなら「夜の血」が騒ぐのに、今日はやけに冷めている。
見知った顔が店に誘っても、一瞥しただけで通り過ぎた。
賑やかな繁華街の中心から少し離れた建物の前で廉司は足を止めた。
さっきの波はもう来ないか、胸を撫でてみる。大丈夫そうだ。
右手左手で拳を作ってみる。十分に力は籠る。
右足左足と重心を入れ替える。ふらつく気配もない。
腕を回して肩甲骨を動かし、首をぐるりと回した。
体は動く。頭は冷えている。申し分ない。
目の前の階段に足を掛ける。
レンガ色の雑居ビルの三階。電気は点いている。
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