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「わかってる。ちゃんとわかってんだ。『それならするな』って言いてえんだろ?
でもな、交尾がしたいわけじゃねぇんだよ。あぁ、確かに俺は今まで好きでもない女を何人も抱いてきた。向こうが俺に気があるのを利用したことなんて数えきれないほどある。自分の生理的欲求を満たすためにな。……わかってるよ。俺はクソ野郎だ。抱いて捨てた女に後ろから刺されたって文句は言えねぇよ。わかってる。
でも、アイツと出会っちまったんだ。全部引っくり返されたんだよ」
抜け切らない酒と睡眠不足に加え、一晩の“一花断ち”をした俺はフラフラなまま、気がつけば薬局にいた。
商品棚に並べられた派手なデザインの紙箱を、背後でたじろぐ夏目が持つ買い物カゴにポンポン放り込む。
サイズも厚さも色も気にしない。光る?光らせてどうするんだ。まぁいいか。
「アイツとのセックスは愛情表現なんだよ。『挿れて、イって、終わり』じゃねぇんだよ。わかるか?」
「……若」
「俺がどれだけ一花の事が好きか伝える。一花がどれだけ俺の事を想ってくれてるか伝わる。言葉だけじゃダメなんだよ。毎日欠かすことの出来ねぇコミュニケーションなんだよ。なぁ」
「若、そろそろ行きましょう。む、向こうからJK達が……すごい目で……っ」
「JKだぁ!?テメェ、人の話聞いてねぇのかっ!俺は一花しか興味ねぇ!一花しかいらねぇ!それなのに、それなのに……っ」
「わかりましたっ、よくわかりましたから!ねっ?ほら、俺が全部会計しときますから。若は先に車で……あ、あれ?甲本?」
しゃがみ込み、項垂れる俺の後ろで夏目が震えるスマホを耳に当てる。
「……若、戻りましょう。一花さんが――」
焦りの色をを帯びた夏目の口から漏れ出た名前に、泥沼に沈みかけていた意識が無理矢理引きずり出された。
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