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19 あなたのそばに…4
「きっと向こうは、俺と再会することなんか望んでねぇよ」
コンビニに居たら、いきなりヤクザに声を掛けられて車に連れ込まれたのだ。
すぐに解放されたとはいえ、交通事故にでも遭ったような気分だっただろう。カタギの人間なら尚更だ。平然とはしていたけれど、きっと怖かったに違いない。
フィルターに口をつける。火がジジッと音を立てたような気がした。
森の中で静かに息づく花の美しさに気づいたのなら、触れずにいてやるべきだ。
無理矢理摘んで持って帰っても、花の寿命を縮めるだけなのだから。
「もういいんだ」
ぼんやりした頭で己に言い聞かせる。
自分のしたことは正しい。間違ってない。
こんな宙ぶらりんな気持ちも、いつか晴れる。元に戻れる。
彼女の存在を知らず、いつも何か物足りなさを感じていた毎日に。
今までは気にも留めなかった道端の花を見ても、何も感じなくなるだろう。
見かけよりしっかりした肩。凛とした横顔。絹糸のような黒髪。
不意によみがえる彼女の記憶に胸が詰まることも、いずれは。
氷が溶け、ほとんど水のような味しかしないウィスキーを飲み干す。
美味さを感じなくなったことに表情を曇らせたつもりだったのだが。
「……ちっともよくないじゃない」
そう言って、美咲は廉司の肩にそっと頭を乗せた。
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