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3 手負いの黒猫…2
「……!」
真っ黒なライダースで全身を包み、細身だが骨はしっかりしていて肉づきもいい。急に現れた男に驚く様子もなく。右手の傷に不器用に貼った絆創膏の剥離紙を傍らに置いていたコンビニの袋に放り込んだ。
雨除けのために頭部を覆っていた黒いフードが背中に落ちる。
艶のある短い黒髪。猫のように鋭く大きな目。小さいのにぽってりと厚みのある唇をした……女だった。
その目を見た途端、男の身体に確かに電流が走った。思わず言葉を失うほどキツイやつだ。
「……煙草ですか?」
「?」
全てを見透かすような深い漆黒の瞳。
(コイツ…なんでわかったんだ?)
味わったことのない感覚の重なりに戸惑う男に、女は意外な言葉を続けた。
「灰皿使うんなら、どうぞ」
そう言って立ち上がった彼女の隣に客用の灰皿があったことなど、彼は全く認識できていなかった。
ゴミを片付けてさっさと立ち去ろうとする様子に焦り、黙ったままその進路に立ち塞がる。女の動きが止まる。
だが、この男の行動は「反射」と呼ぶ方が自然だった。
「何ですか?」
何なのだろう。彼自身よく分からない。表面上は平静を装ってはいるが、こんなに余裕が無いのは生まれて初めてだ。
そんな男を焦らせるかのように次第に雨足は強くなる。空から落ちてきた雫が女の持つビニール袋に当たってパチっと跳ねた。
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