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65 始動…4
レンガ色の雑居ビルの三階。
辻興業と彫られたプレートが取り付けられた灰色のドアをノックする。中から男の太い声が答えた。
ドアを開けると、20坪程の事務所スペースがあり、部屋の中央に応接セットのガラステーブルとソファが4脚置かれている。
最奥にやたらと立派な事務机。そこでふんぞり返っているのが、辻宗則だ。
深更通りを挟んで飛廉会と角を突き合わせている辻組の組長である。
「いたずら電話かと思ってたんだけどなぁ。本当に来たな」
「忙しい中時間割いてもらったんだからな。約束は守るぜ」
「よし、じゃあサッサと話を聞かせてもらおうか。こっちは『忙しい』んでね」
椅子の背もたれに反動をつけて立ち上がると、辻はソファから廉司達を威嚇するように睨みつけていた三人の若衆を怒号一つで壁に貼りつかせた。
入れ替わるように辻と廉司が向かい合って腰を下ろす。
二人の間に置かれた机上の灰皿を若衆が下げる。準備が整った。
「お宅んところに浜岡ってのがいるだろ」
「浜岡ぁ?」
「そうだ。カタギ相手にいろいろ面倒を起こしてる。アンタも手を焼いてるんじゃないか?」
「さあねぇ……そいつが何なんだ?」
「ウチの若いモンと揉めてな」
「浜岡と、か?」
「いや、正確にはそいつの息がかかった半グレとだ」
「半グレ!」
辻が声を上げて笑う。つられるように壁際に立つ三人も肩を揺らした。
おかしいのも当然だと鼻で笑い返した廉司の後ろで、夏目だけが無表情だった。
「オイオイ、冗談はやめてくれ。切れ者と恐れられる飛廉の頭ともあろう人が。自分とこの若いのがカタギにやられた腹いせに、ウチに言い掛かりつけんのか?それでお前、抗争にでもなったら、どう落とし前つけるんだ、コラ!」
辻の笑いが途中から怒気を孕み、場が凍り付く。
一気に顔を強張らせた三人の若衆を見上げて廉司はフッと笑った。
「浜岡がお宅の組にいることは認めるんだな?」
「だったら何なんだ、アァ?」
「安心したぜ。本当に言い掛かりになるところだった」
そう言って廉司は懐から、浜岡を捉えた写真と動画の入ったUSBメモリーを取り出し、辻に事の顛末を話し出した。
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