第4章 繋がり

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66 始動…5  辻組の事務所に入ってから、気が付けば一時間余りが経っていた。  雑居ビルの階段を下り、建物を振り返る。きっと向こうもこちらの様子を窺っているだろう。  廉司が胸ポケットの中の煙草を取り出し、火を点ける。  それを合図に二人はビルに背を向けて歩き出した。  相変わらず人通りは少ない。  何に妨害されることもなく、冷え切ったベンツまで辿り着いた。車内の空気までキンと冷たくなっている。夏目がエンジンをかけ、エアコンに手を伸ばし、廉司は体を震わせた。 「あー、寒い」 「……どう出ますかね」 「ん?」 「辻ですよ」 「さあな。だがコッチの言い分は通ってるだろ」 「まともに払うとは思えませんよ」 「まぁ、安くはねぇ額だからな」  全身の強張りが抜ける程度に車内が暖まったところで夏目がギアを入れ、ベンツがゆっくりと動き始める。  廉司が辻に示談の条件として提示したのは、北川、戸部の二人分を合わせて八千万。同額の現金と引き換えに朴が集めた浜岡の情報を全て渡す、というものだ。  辻組にしてみれば、対立相手である飛廉会が浜岡の薬物売買の証拠を握っているというのは都合が悪い。もし、そんなものを警察に持っていかれては――その情報源が匿名であったとしても、辻組に対する取り締まりは厳しくなる。  金を払えば証拠は回収でき、組同士の抗争も回避できる。
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