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67 始動…6
「今時、ケンカする方が高くつくんだ」
「辻がそれを分かっていればいいんですが」
「アイツだって、こんな時代に代紋掲げて人束ねてんだ。馬鹿じゃ出来ねぇ」
ヤクザの抗争には命も懲役も金も懸けなければならない。下手をすれば組そのものが壊滅する恐れもある。
それは廉司としても避けたいところだ。
ヤクザ社会のルールを知らない人間が無闇に手を出すとこういう面倒が起こる。
生き辛い世の中だ。
(ウチのモンにも注意しとくか)
何とはなしに車窓を眺めていると懐のスマホが震えた。気づくが早いか、すぐに取り出し画面を開く。しかし、それを見る目が落胆の色を帯びたのを夏目はバックミラー越しに確認した。
「何か?」
「畠山の事務所へ行ってくれ」
「アイツ、何か言ってきたんですか?」
「今日の掛け合いがどうなったのか気になるんだろ。相変わらず気が短ぇな」
廉司が溜息とともに背もたれに深く体を沈める。
その姿にスマホが震える度、飛びつくように反応する最近の廉司を重ね、夏目はやるせない気持ちになった。
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