第6章 RING

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96 耳を覆いたくなるほどの無音…4 「いえ、そろそろ夕飯時なものですから。とらも腹がへってるんじゃないかと。なぁ?」 「……」  若、今のキャットフードはすごいですね。いえ、この間、トイレの砂を買いに行ったんですけどもね。正月限定の商品なんかもあるんですよ。このちゅーるもいつものマグロ入りじゃないんですよ。俺が持ってるのは伊勢海老入り。夏目のなんかタラバガニ入りですよ。いや、本当にすごい品揃えですね、最近のペットショップは――  まるで下手な落語家のようにベラベラと喋る甲本が「ペットショップ」というワードを口にした途端、夏目が彼の左膝を拳で殴った。  なんで殴るの?そんな顔で甲本が見つめ返す。  甲本の疑問を咳払いで払いのけた。 「若、少しよろしいですか?」  それでも返事はない。夏目と甲本は目を合わせて頷いた。 「失礼します」  二人同時に左右の襖を開き、中の様子に言葉を失った。  もともと物の少ない寝室の四隅に置かれていた間接照明が壁を切り裂き、窓を突き破り、床に倒れて破片が辺り一面に散乱している。  夏目が昼前に持ってきた粥の椀も床で粉々になり、残っていた中身が絨毯を汚している。  庭を望める南側のガラス戸も全て割れ、遮光カーテンが揺れて冷気が室内の温度を奪っていた。  甲本と言葉を交わすことも無く、破片を踏まないように気を付けながら中央のベッドに近づく。断りもなく、丸まっていた掛布団をめくった。雑に畳まれたジャージ。やはり居ない。  並んだ枕の下を手で探っていた夏目に、ようやく甲本が低い声を掛けた。 「おい、これ」  カーテンの下に落ちていたと差し出されたスマホの画面はヒビだらけになっていて、心なしか変形している。試しにホームボタンを押してみたがヒビが虹色に光るだけで役に立たない。  二人の胸騒ぎが最高潮に達しようとした時、外から組員の叫び声が聞こえた。
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