第6章 RING

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97 耳を覆いたくなるほどの無音…5  再び慎重に足場を選んで寝室を後にし、表に出た。  騒ぎ声のするカーポートまで走る。夏目と甲本の姿が見えると若い男達が我先にと声を上げた。誰も彼もが、そこに停められた五台余りの車の足元を指さしている。 「全部やられてます!」 「こっちもです!」  組員の車は勿論。ベンツもアルファードも使い物にならなくなっていた。 「くそっ、誰がこんな」 「……若だ」  夏目の呟きに皆がどよめく。  切り裂かれ、空気が抜けたタイヤを見つめながら、夏目は考えられる最悪の事態を頭からひねり出そうと苦心した。  その時、懐に入れていたスマホが鳴った。  画面に表示された名前に戸惑いながらも通話ボタンを押し、すぐに応答した。 「夏目です」 「おう、良かった。お前は無事なんだな」 「ど、ういうことですか、組長」 「あぁ?なんだ。一緒にいるんじゃねぇのか?お前に聞けばあのバカが何しようとしてるのか分かると思ったんだが」 「若から連絡があったんですかっ?」 「あぁ、しかも公衆電話からな」 「若は、何て」 「『八代目を継ぐ話は無かったことにしてくれ』。そうほざきやがった。それだけだ」  どんな手を使ってもいいから廉司を俺の所に連れて来てくれ。目を覚まさせてやる。  一方的に電話は切れた。
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