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98 耳を覆いたくなるほどの無音…6
夏目の顔から血の気が失せる。呼吸をしているのか、何か言葉を発しようとしているのか、薄い唇がパクパクと開閉する。心配した甲本に肩を支えられ、夏目はようやく彼の顔に焦点を合わせた。
「夏目、大丈夫か?」
「か、を」
「?」
夏目の端正な顔が歪む。絞り出された声は悲鳴にも似ていた。
「若を、若を探せ!早くっ」
弾かれたように組員たちが動き出す。全員がスマホを取り出し、部下を呼び出して足を確保しようとする。
夏目も電話帳を開いた。ふとハ行で手が止まる。
まさか。いや、そんなはずはない。
しかし当たりだったら。このままいけば間違いなく抗争になる。
(コイツらにまで知られるわけにはいかねぇ)
夏目はスマホを閉じ、騒然とする輪の中から黙って離れた。
屋敷の門を抜けて、そのまま自分と美咲の住まいであるマンションへ走る。
不幸中の幸いか、今日は自慢のGT-Rをマンションのガレージに置いてきたのだ。
この足なら全速力で飛ばしてもマンションまで四十分。間に合ってくれ。
十五分ほど必死に走ったところで、夏目は突然空に向かって声を上げた。
タクシーを停めるという手段を、大通りに出るまで失念していた。
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