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リンゴ、ゴリラ、ラッパ、パンツ、ツミキ、キツツキ、キ・・・キ・・キツネ、寝息、キ・・・キジ!時期、・・・
「あーもう!お前とやってもつまんねー」
いつもの教室。いつもの昼食。動いたせいで制服にエビフライを落とす。これも全部こいつのせい。
「またすぐ投げ出して怒る!あんたはゴリラを見習ったほうがいいわ」
教室に散りばめられた赤と青が昼なると、そこに磁石でもあるかのように、色、場所、きれいに分かれる。けど俺は動かない。こいつも。多分、普通ではないのだろう、俺も、こいつも。
「ゴリラはね、繊細で優しい生き物なのよ。しかも、知性もあって体脂肪率は7%。知ってた?」
良く喋る。小さな二段弁当はまだ半分以上残ってる。
「ウッホホ、ウホ」
「フフっ、やるならちゃんとやりなさいよ。」
俺のことは見透かす癖に、こいつは透ける気配がない。もう校庭で遊んでるバカの頭には、「楽しい」がハッキリ透けて見えるのに。
「こないだの大会、残念だったね、行ってたんだよ私。」
ちょっと小さい声で。顔は見てないけど、多分表情も変わってる。よーく見たら黒板に顔が映る気がして前を見つめる。
「知ってる。すぐ見つけたよ。俺がゴリラだったら勝ってたかもなーあの試合。」
「・・・」
こいつはいつも変な間を開ける。この数秒はブスで声のでかいあいつの笑い声も、録画してる昨日のアニメのネタバレも聞こえない。
「ありがとう、来てくれて」
小さな声で黒板に向けて。
「暑いねー。ゴリラは暑いの平気かなー」
「さあ、ゴリラって臆病なんだってさ。」
たった今携帯で調べた情報だ。
「ふーん。変なとこだけゴリラに似てるね」
「おい!」
もうすぐチャイムの五分前、こいつはトイレ鏡で外見チェックに行く時間。ほら、椅子引いた。
「なあ、もう一回だけしりとりしようよ」
「いいよ、降参はなしでね」
「俺が勝ったら今週、動物園行こうよ、ふたりで」
「え、うーん、私そんな暇じゃないしなー、まっ、どーせ負けないからいっか」
ああ、なんでよりによってしりとりにしてしまったんだろう、俺、じゃんけん強いのに。
「じゃあ、私から、しりとり」
「リンゴ」
「ゴリラリアン」
「え?なんて?」
「私の負けでしょ!本物のゴリラ、見にいこっか!」
キーン、コーン、カーン、コーン。
チャイムがまるで祝福の鐘のようだった。
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