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「どぉぉせあたしはちょうちょ顔よ! でかくて可愛げのないアラサーよ! 仕事は鳴かず飛ばずで彼氏だってここ数年いなくって、懐は寂しいわ色んな意味で寂しいわ、それでも前を向いて這いつくばって生きていこうって頑張ってるのに、受ける仕打ちがこれ!? やっと男っ気にありついたと思ったら二股よ二股! しかもあたしは使い古してもう飽きたって事なんだわ! 和哉っ、あたしに良いところってどっかあった!? お願い、あたしの長所を見つけ出して、褒めて褒めて褒めちぎっていい気持ちにさせてちょうだいっ。じゃないとあたしもう実家に帰って、あのうどん屋で生地を踏んで踏んで天ぷらを揚げて揚げて、そうやって生きていくしかなくなるのよ! あの天井の低い調理場で、ざるやたらいが乗った棚に頭をぶつけて死んでいくんだわ! 東京くんだりまで出てきて必死になって戦って、結局あたしの行く末はうどん屋! だったら最初っから究極のうどんを追求する人生を選択すればよかったのよ。そしたら……そしたら、こんな惨めな思いはしなくて済んだのにーっ!!」
その日、あたしはしたたかに酔っ払っていた。元カレの和哉が営むバーに転がるようにしてたどり着いたのは、多分夜の9時ぐらいだったように記憶している。
月曜日の早い時間だったから、和哉の店には客が見当たらなかった。ここはいわゆるショットバーで、混み合ってくるのは大体10時過ぎ。
だからあたしは思いの丈を和哉にぶつけた。もう10年も前に、半年だけ付き合っていた和哉。
別れはしたけどずっとなんとなく友達のままでいて、和哉が店を開いてからはあたしはすっかりこの店の常連客になっていた。よりが戻ることなんかは100%ありえないけど、すべてを知られている安心感というのは絶大で、弱音を吐きたい時には何もかもを受け止めてくれる大切な場所になっている。
和哉は目の前のカウンターの中で、多分、苦笑した。30を超えたというのに相変わらず黒ずくめのダンサーみたいな格好をしている。ゴツイ指輪がついた手で、ハイボールのおかわりを作ってくれながら。
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