act.4 無遠慮なゴールデンレトリバー。

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 至近距離に寄った生田くんをふいとかわして、あたしはオシャレな女性達の流れの中に滑り込む。後ろからカメラバッグを肩から下げた生田くんが、「ま、待って下さいよ!」なんて言って追ってくる。  ……もう、生田くんは苦手だ。  急に距離を詰めてくる。自然に触れてきたりする。  いちいちドキドキさせられる。確か年は25だっけ?  愛佳ちゃんといい、若い子は何を考えているのか、分からない。  『鮨 響』に到着したのはランチタイム真っ盛り。混雑する店内で店長さんを呼んで頂き、名刺を渡してご挨拶する。 「初めまして。GOOTAから来ました、フリーライターの中条華と申します。こちらはGOOTA編集部の生田健一(いくたけんいち)です。今日はすっごく楽しみにして来たんですよ。本格寿司が90分食べ放題! もちろん夜の集客にも繋がる記事を書かせて頂きます。よろしくお願い致します」 「ああ、本物の華ちゃんだ。こちらこそよろしくね。お手柔らかに頼むよ。夜のネタまでなくなったんじゃ困っちゃう。あの連載は、もう飲食業の人間の間では恐怖のマトになってるんだよ。華ちゃんにロックオンされたんじゃ、誰も断れないってね。うちだってこの食べ放題は赤字でやってるのに、おたくの偉い人が『中条華に行かせますから』って……ほらもう断れない!」   50代と思しき店長さんは、そんな事を言って豪快に笑った。きっと普段は厳しい顔をした職人さん。あたしがえへへと頭をかいてから、「実は朝から何も食べてないんです」と返すから、店長さんはもっと笑う。  はい、これでお店といいパイプが繋がったわ。GOOTAがこの先また取材に伺う機会もあるだろうから、いい印象を残しておくのもライターの仕事。 「じゃあ、いただきます!」と言って、あたしは用意されたテーブル席につく。目の前には生田くん。早速カメラを取り出して、お客さんの顔が入らないように留意しながら、店内やテーブルの様子、そしてあたしを撮っていく。
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