act.4 無遠慮なゴールデンレトリバー。

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 忙しいランチ時にこういう取材をさせてくれるお店は少ない。出来れば暇な時間帯に来て下さいと言われるのが通常だけど、それじゃ店の活気が伝わらない。  だからあたしはなるべくなら混雑する時間帯の取材を心がけている。お客さんがいて初めて生まれる空気がある。  それを吸わずにいい記事が書けるとは思えない。そんな事を考えてしまうあたしは、もしかしたら一色さんの言う通り、すっかりグルメライターとして出来上がってしまっているのかも知れない……。 「あ、注文票。これに記入して注文するんですね。やっぱ高級食材は数量が決まってるんだ。うに、いくら、大トロはそれぞれ8貫までですって。でも8貫食えば既に腹いっぱいになるんじゃないすかねえ……一般市民は」  まるであたしは一般市民ではないかのような生田くんの言い草を聞き流して、あたしはその注文票に書き込んでいく。全種類2貫ずつ。一気にテーブルに乗ってくれた方が、迫力のある絵が撮れるに違いない。 「おお、さすが華さん。食いますねー。全部で15種類だから、30貫! んー、はっきり言って俺でも怪しい量です! あと赤だしに茶碗蒸し? はい、注文票こっちに見せて! 華さんのアップ撮りまーす!」  ああ、いちいちうるさい生田くん。斜め下からあたしのアップを舐めるように撮る。やだなあ、鼻の穴が写るじゃん。  GOOTAに入る前はファッション誌で撮影アシスタントをしていたという彼は、どうも撮影の方向を間違っている。  今撮るべきは美味しいお寿司なんであって、あたしは『本当にちゃんと中条華が来て取材をしましたよ』という証拠としてそこに収まればいいのだ。ろくに取材もせずに書いていると思われるのは心外だから、それははっきりと撮って欲しいと思う。  でも生田くんは、編集部の意向なのか個人的な考えなのか、あたしをキャラとして確立させる気満々なんだから困る。どうしても『フードファイター中条華の戦い』的な色をつけようとする。  違うんだって、方向性が。そっちは別に目指してないんだって。  でも、あたしの『下町食堂大食い連戦記』やその他のフードニュースが確実に読者を増やしているのは、そんな生田くんの技量のおかげとも言えるのかも知れないのだ。実際にさっきの店長さんも、確実にあたしをご愛嬌フードファイターとして認識していたようだった。
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