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「……二股て。例の編集長? だから俺言ったじゃん。『都合のいい女になるなよ』って。大体、華は相手の顔色見過ぎなんだよ。週一で食事からのセックスって、それ確実に1週間のルーティンの一部になってんだから。多分その男、二股どころじゃねえぞ。土日は休みで都合五股だな。で、お前は何曜日の女だったわけ?」
「ごごご、五股!? じゃああたしと愛佳ちゃん以外にも、ライター仲間の中に編集長と付き合ってる子がいるって言うの!? あたしは毎週水曜日だったけど、月金の日替わりで別の子と、編集長は付き合ってたって……」
「いやいや華。しょっぱなから認識が誤ってんだって」
にこ、と笑って和哉はハイボールを差し出す。それを受け取るあたしに、突き刺さるのはトドメとも言える言葉。
「その男、お前と付き合ってるなんて微塵も思ってないから。他の女についてもそうだよ。ただのセフレ。ヤリ友。使い捨てのティッシュと同じだ。飯食わしてくれるだけ人情味があるんじゃね? 性処理用のティッシュは普通飯は食わねえからな。まあ飲め。お前の新たなあだ名は今日から『ティッシュ』だ」
「……ティ、ティ、『ティッシュ』ー!!!!!!」
あたしはハイボールを片手にむせび泣く。『ティッシュ』。ひどいあだ名だけど、相変わらず和哉の洞察は鋭い。
そうか、編集長とあたしは付き合ってなんかいなかったんだ。ホントはあたしだって知っていた。だってあたしの方にも、そうなる事で仕事を回してもらえればって下心があったのも事実だし。
でも、最先端の美容誌の編集長をしているあの人を、少しずつ好きになっていたのも事実なんだ。美容ライターとして身を立てようとしているあたしには、あの人はあまりにも眩しく輝くいていて憧れの存在だったから……。
「29にもなって自分探しとかそろそろ止めろよな。お前はグルメライターとしてなら才能があるんだから、いくらうまい飯食わせてくれても女をティッシュ扱いするような男にはもう会うな。うどん屋継ぐ人生だって悪かねえはずだ。お前は美容より食いもんの世界が向いてるよ。10年以上知ってる俺が言うんだから、間違いない。……だろ? 『ティッシュ』」
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