42人が本棚に入れています
本棚に追加
だからおおっぴらに文句も言えず、あたしは今日もフードファイトの一部始終を生田くんのカメラに収められる事になる。……美味い。ここのお寿司、1ミリの文句のつけようもなく美味い。
90分食べ放題2800円とは思えないその味に、あたしは思わずもう一周全種類制覇に挑んでしまう。
テーブルの横には爆笑する店長さん。お寿司をつまむあたしとふたり、顔をひっつけピースサインをする画像がサイトのトップを飾るのは1週間ほど先になると聞いて、店長さんは「楽しみだなあ」と言ってまた笑う。
「……いやあ、今日も気持ちいいぐらいの食いっぷり! 食ったもんどこに行くんですか? 全然腹膨らんでないし。どっかのトイレにそのままワープしてるとしか思えない! まさに『四次元胃袋』!」
店長さんにお礼を言ってお店をあとにして、駅へと向かう道すがら生田くんはまだしゃべっていた。
『四次元胃袋』……言い得て妙だけど余計なお世話だ。あたしはあははと軽く笑って、それからふと思い立つ。
キッチンカーを、見に行こう。ここからなら渋谷のSHIBUYA CASTが近い。
歩いてだって行ける。まだこの時間なら何台かキッチンカーが出ているはずだ。ネットで見た。あそこは毎日日替わりで色んなキッチンカーが出てるって……。
「生田くん、記事は明日には納品出来ると思うから。お疲れ様でした。あたし、帰るね」
まだ何かしゃべっていた生田くんを制し、あたしは言う。そして、くるりと背を向ける。
「えっ」
慌てたように声を上げる生田くん。反応すると話が長くなる。聞こえないふりをして逃げる。
そう、あたしは生田くんから逃げ出す……。
「待って下さい、華さん」
……ほら、この子はこう。
「俺まだしゃべってます。ちゃんと聞いて下さい。どこ行くんすか? 何しに行くの? 家帰るなら駅でしょ? ねえ、どこ行くの」
がっちりとあたしの二の腕を掴む。でかい犬のようなこの年下の男の子は、時に独善的。
最初のコメントを投稿しよう!