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「……仕事関係で、取材。GOOTAとは別の仕事。宿題出てるから、頑張らなきゃ。大丈夫、ちゃんとGOOTAの仕事もするから」
「じゃ、俺も行きます。うちの花形ライターがよそでどんな仕事してんのか、見とかなきゃ。もう美容系に脇目振らないように見張っとけって言われてます。俺も個人的に、興味あるし」
……知るか。
あたしは掴まれた腕を振りほどくと笑う。にこにこ笑って、生田くんのでかい身体を突き飛ばすふりをして。
「ナイショだよ。フリーランスは手の内明かしてたらやっていけないからさ。大体あたしは元々美容畑の人間だよ。……まあでももう『美人百華』は出ないかな。それだけは言えるかも知れないけど」
「え。『美人百華』切られたんすか? もう3年もレギュラーだったじゃないですか。大丈夫ですか? 収入、がっくり減るんじゃ……」
余計なお世話。別に切られた訳じゃないし。
自分から辞めてやるだけよ。それをこのでかい犬みたいな若造は、デリカシーのない言葉で悪意なくあげつらう。
だからこの子は苦手よ……!
「大丈夫。心配しないで。じゃ、あたし行くから。次の取材もよろしくね!」
「待って下さい華さん! 俺も行きます! 華さん、待ってってば……!」
人混みの真ん中を突っ切ってあたしは走る。でかい犬は鼻が効かない。人混みに紛れれば逃げ切れる。逃げる。逃げ切る……!
走って走って、気づけばそこは渋谷。
ああ、キッチンカーが並んでいる。ここはSHIBUYA CAST。1時を大分過ぎたのに、まだキッチンカーには行列が出来ていた。
そこでやっと振り返る。あたしを追ってくる、あの犬みたいな生田くんはもういない。
安心して、それからあたしはやっぱり思う。今の若い子は何を考えているのか、あたしにはさっぱり分からない。
距離が近くて頻繁なスキンシップをとってくる生田くん。25歳、独身。職業はグルメサイトの編集者兼カメラマン。
190を超える身長に整った顔。あたしに無遠慮に踏み込んでくるこのでかい犬は。
社内の何人もの女の子と同時に浮名を流すプレイボーイなのだと、一色さんは言った。
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