act.5 男気お嬢様とドライなオカン系姉貴。

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 慌ててインターホンのカメラを覗きに走る。……と、そこに写っているのはばっちりスーツ姿に紙袋を手にした、鈴さん。    解錠ボタンを押して玄関扉を開けて待つ。エレベーターから降りてくる鈴さんは、にっこり笑って。 「はい、お待たせ。お腹空いたでしょ。食べずに待っとけなんて言ったくせに、遅くなってごめんね。あら、ちょっと細くなったんじゃない?」 「ええ、もうお腹と背中がくっつく瀬戸際でした。早速ビール開けましょ。今日もお疲れ様でした」  まるで嫁さんみたいね、なんて言いながら、鈴さんはスーツのジャケットを脱ぐ。それを受け取ってハンガーにかけてクローゼットにしまうあたしは、なるほど旦那様にかしづく奥さんのようだ。  鈴さんはシャツもスカートも脱ぐと、あたしが渡した部屋着に着替える。ジェラートピケのピンクのもこもこワンピース。  お客さん用の部屋着においてあるものだ。あたしはユニクロの部屋着を愛用しているから、まだ一度もこの可愛いもこもこには袖を通していない。  ドレッサー代わりにしている出窓に置いてあるシートを使って、鈴さんはメイクを落としていく。その間にあたしはテーブルのノートパソコンをたたみ、寄せてから冷蔵庫から取り出した缶ビールを並べる。  鈴さんが持ってきてくれた紙袋からは、食欲を刺激する香り。取皿も2枚並べて、さあ、何が出てくるのかな……! 「美味しそうでしょー。銀座のニューオープンのフレンチバルからテイクアウトしてきちゃった。もう華は行った? 結構騒がれてたから、もう食べたかなーと思いつつ」    にこにこしながらクッションに腰を下ろす鈴さん。あー、やっぱり鈴さんは優しい。あたしは紙袋から次々小さなパックを取り出して、テーブルに並べる。 「話だけは聞いてたんですけど、未経験です。フランスからシェフが来てやってるお店ですよね。そうそう、『ル・コルドン・ノワール』でしたっけ。きゃーっ、綺麗! テリーヌ? パテ? こっちはビーフシチュー! あーキッシュからチーズの香りっ。きのこのマリネも美味しそうっ! ……あー、でもこれ、ビールじゃないですね。ワインないなー。こないだひとりで1本空けちゃって」 「そんな事もあろうかと」  手を伸ばしてバレンシアガのトートを引っ張り寄せる鈴さん。そこから取り出すのは……なんと白ワイン。 「冷えてるわよ。さ、グラスグラス! 乾杯しましょ!」
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