act.5 男気お嬢様とドライなオカン系姉貴。

4/6
前へ
/232ページ
次へ
 やっぱり、鈴さんはあたしがへこんでないか気にして来てくれたんだ。あたしはワインとキッシュで満ち足りた気持だから、そんなに自己卑下せずに鈴さんに自分の気持ちを伝える事が出来る。 「……自分の立ち位置、自覚しちゃったんで。愛佳ちゃん、多分分かってて言ってくれたんですよね。……鈴さんも。きっと周りみんな分かってたんでしょうね。なのにあたし、自分は編集長の女なんだと思ってたんです。仕事が欲しくて誘いに乗って、しまいには編集長を好きになってました。あたし本物のバカです。本当に恥ずかしくて、もうあの座談会に顔を出す事なんて出来ない……」    これぐらいの自己卑下なら、あたしにしてはまだ自分を保っていると言える状態だ。だってちゃんと客観的に自分を分析して、傷に塩を塗り込んだりかさぶたを剥いだりせずに話が出来ている。 「……そうね」  あたしの自己分析に評価を与えてくれる鈴さんは、やっぱりいつも通りドライ。 「それがいいわね。正直、噂は聞こえてきてたから。賢いあんたにしては変な事をしてると思ってた。まああの男はもとからいい噂は聞かないからね。仕事は出来るけど正体が分からない。慶應卒のバツ2だっけ? まあ詳細はあんたの方が詳しいんでしょう。でも、とにかくあんたの相手ではない事は確かだわ。不誠実だし不透明。ホントは私も言いたかった。でも言えなくて、だからきっと愛佳がその役割をしてくれたのよ」 「……その為に、愛佳ちゃんは編集長の誘いに乗ったって言うんですか? あたしの目を覚ますために? 彼氏もいるのに、あたしの為にそんな……」  愛佳ちゃんは、お嬢様。  おうちは大きな会社を経営している。彼氏はそこで働く重役候補。  一度一緒に飲んだ。イケメンで話題も豊富で性格も良かった。あんな彼氏がいるのに、編集長と浮気するなんて……。  自分の事を棚に上げて、あたしはこっそり愛佳ちゃんを非難する。でもそれも織り込み済みみたいな顔をして、鈴さんは軽く苦笑する。 「私はね、今日はそれを言いに来たのよ。愛佳の弁護をする訳じゃないけど」  ビールを一気に煽って。
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加