act.6 担げ!うどん姫。

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 電話を切ると、ひとつ息をついて家を出る。……まったく、あいつは一体何なんだ。  社内の女の子に一度に何人も手をつけているのだという。それだけでは飽きたらずにフリーのライターにまで食指を伸ばそうっていうのか。こっちは年上なのに。ところ構わずマーキングしたがる犬みたいだ。そんなのにかかずらって消耗するなんて絶対に御免だ。  よくしゃべりよく笑う、毛並みのいいゴールデンレトリバーみたいな生田くん。  その一挙手一投足に反応してはいけない。距離を保って踏み込ませない。そうしなければ面倒な事になる。それはあたしにはよく分かっている。分かっては、いるんだけど。  これからは接触する機会が増えるんだろうなあ。暗澹たる気持ちを抱えて電車にゆられて、あたしは愛佳ちゃんと待ち合わせをした渋谷の街へと降り立つ。  神宮前の国連大学前広場で行われている、ファーマーズマーケットというイベントが今日の目的地。  ハチ公前で待ち合わせた愛佳ちゃんは、あたしが着いた時には既に到着していた。今日は可愛いざっくりニットのワンピースに、フェルトのベレー帽を被っている。  あたしは声をかけようとして、一瞬躊躇する。愛佳ちゃんは誰かとしゃべっている。……知り合い? 二人組の男の人。少し観察すると、それはナンパなんだと分かる。  回り込むと迷惑そうな表情。それであたしは状況を理解して、愛佳ちゃんに大きな声で呼びかける。 「お待たせっ! あいつらもう待ってるって連絡あったよ! 急いで! 早く行こっ」  あたしを見つけて、愛佳ちゃんの顔に笑顔が浮かぶ。もうそいつらの方は見ない。交番に向かってあたしは走る。追いかけてくる、愛佳ちゃん。 「もう、華さん遅いですよ! キモいのにキモイキモイ攻撃食らっちゃったじゃないですか! イケメン以外は全員死ね! て言うか待って! ヒールで、走れない……!」  『イケメン以外は全員死ね』って。  ほんとにこの子はめちゃくちゃだ。男前で破天荒。大金持ちのお嬢様だなんて、とてもじゃないけど思えない。  でも心底いい子だ。あたしはこの子が好き。だから、ちゃんと言わなくちゃ……!  信号を渡って、コージーコーナーの前であたし達はやっと足を止める。あたしは、そこでやっとちゃんと愛佳ちゃんの目を見る。
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