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「小芝居、打たせてごめんっ。あたしがアホでした! あと今日付き合ってくれてありがとう! しかも約束の時間に遅れちゃって、ホントごめん……!」
愛佳ちゃんは笑う。10月の秋晴れに照らされた、女優みたいに綺麗な顔が、あたしに微笑みかける。
「マジで何やってんですか華さん。これだと思ったら他のもんが目に入らなくなるんだから。30前だっていうのに思い込みが激しくて、よく言えば一途で悪く言えばただのアホ。あと、フリーで働くなら遅刻は厳禁ですよ!」
その可愛い口から溢れるとは思えない毒舌。
頭をかきながらごめんごめんと謝る。まったくもう、という愛佳ちゃん。
それだけであたし達の間にはもう何のわだかまりもなくなる。……やっぱりこの子は、大切な友達だ。
だから国連大学まで青山通りを歩きながら、あたしは愛佳ちゃんにキッチンカー経営の計画を進めている事を話す。コンサルタントの人がついてくれて、その人に言われたから今日はこのイベントに出店しているキッチンカーを偵察したいのだと伝えると。
「……マジすか。先に権利金収めろとか言われてません? その人の事務所にはちゃんと行きました? まさか名刺一枚で信用したんなんて事ありませんよね?」
あれえ……なんだろう。愛佳ちゃんたら、もしかしてまた怒ってる? あたしは若干、慌てる。
「いや……事務所とかはないみたい。フリーで動いてるらしいから。貯金の額は訊かれたけど、その人自身が白金の地主の息子で、お金持ちで……東大卒だし」
「もうアホ! こんだけ騙しやすい女そうはいませんよ! 地主だ東大だってナンボでも嘘つけるでしょ!? 土地の権利書と卒業証明書見たの!? こんなんだから編集長に騙されて、仕事をエサにやられまくって! 結局エサももらってないのに噛みつきもしない! あのねえ華さんっ、性格がいいにもほどがありますよ! いくら四国の田舎から出て来たからって、なんだってまあそう簡単に人を信用するんですか!」
えええ、だって玉木さんを紹介してくれたのは和哉で、和哉はあたしの10年前から知っている元カレ兼友達で。
話の流れ的に疑うポイントなんて一つもなかった。そりゃ金を用意しろとは言われたけど、それはキッチンカーの開業資金であって、別にあたしから300万を巻上げようとしているって訳じゃ……。
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