act.7 犬、マーキングする。

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 でも、電話をしてみよう……。  月曜日、朝の9時。  今ならタイミングも悪くない。ちゃんと用事もある。  あたしはスマホを手にすると、電話帳から『玉木涼』をタップして息をひそめる。  呼出音が途切れたかと思うと、「うっ」といううめき声があたしの耳に届いた。それからガツンという音、ちょっとあってからビシっときしむような音。 「……玉木さん? あの、中条です。もしもし。今お電話大丈夫でしょうか……」  あからさまに大丈夫でないような雰囲気のある電話の向こう。な、何があったんだろう。あたしは何度も呼びかける。 「た、玉木さん? 玉木さん、大丈夫ですか? 何か、お身体の具合でも……」  また聞こえるうめき声。ガッという衝撃音。  ……これ、やばくない? どういう状況なの? なんか暴力的な匂いがしないでもないんだけど。  「玉木さん!? あたし、華です! 何かあったんですか? 大丈夫ですか? 玉木さん……!」  思わず叫ぶあたしに、ややあってからようやくその人の声が返ってくる。何事もなかったかのような、涼しい声で……。 『いや、何でもない。中条華、久しぶりだな。どうだ、進捗状況は』  ああ……玉木さんだ。  あたしはあの少し皮肉を浮かべた綺麗な顔を思い出す。耳元でするその声が、まるですぐそばで囁かれているようで、良からぬ想像が脳裏に浮かんでしまう。  だめだめ、仕事の話をするんだから。何やらしい事考えてるの。  いくら先週編集長に会わなかったからって。たった1週間で欲求不満だなんて、そんなバカな話ってないわ――。 「お、お久しぶりです。大丈夫でしたか? 何か、お取り込み中だったんじゃ」 『いや何でもない。それよりどうした? 理想のキッチンカー像は浮かんだのか? 約束は水曜日だったはずだが』 「いえ、それが、ご相談があって……」  それであたしは一連の流れを説明する。GOOTAが絡む事。カメラマンがついて、開業までを記事に仕立てて連載していく事。  まだ企画は草案段階だけど、おそらく会議を通るだろう。そうなれば玉木さんの名前も出る事になる。宣伝効果は抜群だけど、それが玉木さんの望むものなのかどうか……。
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