11.エピローグ

7/8
737人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
「似合いすぎるぐらい、似合ってるけど」 いいのかよ、みんなアンタのこと振り返って見てるし、目立ちたくなかったんじゃねぇの? そう小さく呟くと、永瀬はへらっといつもの笑顔だ。 綺麗な顔が全開なだけに、その気の抜けた笑顔すら、なんかすごい破壊力を持って見える。 「心配してくれてありがとう。でも僕、自分の顔の使い方はよくわかってるんだよね」 君の隣を歩くなら、このぐらいしないと。 僕の顔が目立てば、君に寄ってくる悪い虫への牽制になるからね。 おっとりといつもの口調ではあるが、何かとんでもないことを言っている気がする。 昂平は、髪の毛と一緒に被っていた猫も脱ぎ捨てたのでは、と永瀬の顔を思わず凝視した。 「俺に寄ってくる悪い虫って…何言って…」 「さぁて、昂平君、お腹空いてない?僕、お腹空いちゃった…何か食べよう?」 永瀬はのんびりとそう言って、さりげなく昂平の手を握った。 「人が多いし、はぐれちゃうといけないから、繋いでていい?」 金沢と言ったら、海の幸かなぁ? 何が美味しいだろう? 昂平君のオススメある? 手を繋いだら。 なんだか昂平は、もう全部どうでもよくなった。 この体温の持ち主を、自分は好きなのだ。 おっとりと温かい癒し系の永瀬も。 実はそのほのぼのとした表面とは違うかもしれない別の面を持つ永瀬も。 側にいて欲しいと思うのは、どちらも同じ熱を持っている。 「俺のオススメとか、安い居酒屋ぐらいしか知らねぇし」 アンタの奢りなら、もっと高いとこ行きたいかも。 そう言って、昂平は、永瀬の顔に自分の顔をぐいっと近づけた。 ちょっとびっくりした顔をする永瀬に、悪戯っぽく笑う。 「これ、アンタの距離感だから」 おかしいって自分でも思うだろ? そう言ったら。 不意に背中を抱き寄せられた。 あっと思う間もなく、その綺麗な顔がもっと近づいて。 唇に、柔らかい感触。 何度か啄むように触れて、すぐに離れる。 「僕の距離感は、君に対してはこのぐらいだよ」 いや、ホントはもっとなんだけど。 にっこり笑ってそう言う永瀬に、昂平はどうやら永遠に勝てそうにない。 「何回か言っているけど、僕、君のこと好きなんだからね…あんまり煽らないで欲しいなぁ」 これでもかなり我慢してるんだよ?
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!