3.偶然も続くと必然になる?

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「ええっと、どこに置いたかな……」 永瀬は本があちこちに山積みになっている研究室の中を、昂平の本を探して歩き回っている。 昂平は、出されたコーヒーを啜りながら、そんな彼の姿をぼんやり眺めていた。 身長や体格が本当に兄によく似ているから。 ボサボサで無造作に束ねられた髪や、ヨレヨレの上着に、イマドキこんな眼鏡どこで買うんだというぐらいの黒ブチ眼鏡。 雰囲気は、全然兄とは違うのに。 「あったあった!」 子どものように嬉しそうな笑顔になって、そいつは彼のほうを振り返った。 「これだよね、ハイ」 数冊の本を手渡され、昂平はそれを確認する。 間違いない。 コーヒーはもう飲み終わったし、本も見つかった。 寮に帰ってレポートを書かないと。 そう、思ったのに。 自分でも、思いがけない行動に、彼は出ていた。 その、距離感がやたら近いぽややん男を、引き寄せて抱きしめていたのだ。 「え?え?……君?どうしたの?」 さすがに相手も驚いたらしく、ビックリした声を出している。 「頼むから、少しだけ……少しだけ、こうして黙ってて?」 その、抱きしめる感触を、ほんの少しの間でいいから。 思っていたよりも、自分は。 兄を奪われた喪失感にまいっていたらしい。 現実には、1度も兄に対してこういう行動に出たことはない。 彼にとって兄は、壊してはいけない聖域で、絶対に喪いたくないものだったから。 そのヒトは、昂平の不可解な行動を、黙って許してくれた。 されるがまま、抱きしめられていてくれる。 どのくらい、そうしていたか。 背中をそっと撫でられて、昂平は我に返った。 「あっ、スミマセン!俺……っ」 慌てて身体を離し、謝ろうとしたが。 へらっと笑うそのヒトは、全然気にしていない様子で。 「いいよー全然。若い男前に抱きしめられて、ちょっと役得だったし」 そして、昂平の頭をそっと撫でてくれた。 「何か悲しいことがあったんだね……僕で役に立てたかな?」 初めて会ったときからずっと同じ調子の、柔らかい声だった。 昂平は何故か急に泣きたくなって、慌てて堪える。 それが、永瀬雪晴と堀越昂平の出逢いだった。
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