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昂平が、次にその人に会ったのは、翌日、昼休みに図書館に本を返しに行ったときだった。
相変わらず大量の本を器用に積み上げて、ヨロヨロしながら歩いている後ろ姿を見かけたのだ。
放っておいてもよかったんだけど。
「おい、また誰かにぶつかるぞ」
なんかいろいろ借りがあるし、とついつい声をかけてしまった。
声をかけてから、チッと舌を鳴らす。
しまった、コイツ、こんなでも准教授だった。
うっかりタメ語で話しかけてしまった…と一瞬反省しかけるが。
永瀬は全然気にもとめていないようで。
「あっ君!また会ったねー」
もう見慣れてきた気の抜けたへらっとした笑顔。
コイツの研究室の様子が目に見えるようだ。
昂平は、知らず、ため息をついた。
「あっ、ダメダメ、ため息なんてついたら、幸せが逃げていっちゃう!」
ため息をつかせた張本人に言われても。
「ほら、半分持ってやるから。つかさ、研究室の学生に手伝って貰えよ」
「いや~、みんな忙しいみたいで」
ほわん、と微笑む永瀬に、それは絶対学生にナメられてるだけだろ、と内心ツッコミを入れる。
「ありがとう、優しいね、君……ええと」
「堀越昂平」
やり取りがめんどくさいので一言で済むようにフルネームを名乗ると、彼は当たり前のように下の名前を呼んできた。
「昂平君」
研究室までその本を運んであげると、永瀬はにっこり笑って言った。
「時間があったらコーヒー飲んでいかない?」
今日はお菓子もつけるよ、2回も手伝って貰っちゃったから。
研究室のドアを開けると、中には誰もいなかった。
「あ!僕を置いて、みんなでお昼食べに行っちゃったな~」
もう、すぐのけ者にするんだから。
当然研究室には誰かいるものと思っていた昂平は、二人きりの状況に一瞬躊躇う。
それから、躊躇ったことに少し驚いた。
コーヒーを淹れるいい香りが室内に充満する。
今日のこの部屋は、窓から明るい光が差し込んでいて、昨日の夜とは少し雰囲気が違って見えた。
部屋の主がぽややんとしているせいか、どことなく和む空気が漂っていて、とても居心地がいい。
昨夜、遅くまでレポートを書いていたせいか、昂平は猛烈な眠気に襲われていた。
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