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「昂平君?」
「あ、スンマセン、なんか眠くなっちゃって」
目を擦りながら答えると、永瀬はのんびりと言う。
「昨日、あんな時間からレポート書いてたんだもんね」
あ、そうだ、と彼は続けた。
「あっちに僕の仮眠スペースがあるから、少し寝て行く?昼休みが終わる前には起こしてあげるよ」
「いや…それは」
さすがに図々しいから、と言いかける昂平に、永瀬は何にも気にしないような能天気な顔で。
「2回も手伝って貰ったお礼だから、気にしなくていいよー。そもそも君が寝不足なのは、僕が本持って帰っちゃったせいもあるんだし」
そして、そのおかしい距離感で顔を近づけてくるから。
つい、じゃあ、とおとなしく従ってしまったのだった。
ドヤドヤと人の気配がして、割としっかり寝てしまっていた昂平は、目を覚ました。
と、ごく至近距離の目の前に、誰かの寝顔がある。
ぎょっとして飛び起きると、部屋に入ってきた複数の学生たちの視線が一斉にこちらに向いた。
「誰だ?」
不審そうな顔をした学生は、昂平の隣に寝ている人物を見つけて、すぐに呆れたような顔になる。
「雪ちゃん何寝てんだよー」
ナメられているだろうと思ってはいたが。
雪ちゃん、て。
昂平は、全然起きる気配のないソイツを見る。
眼鏡をしていないからか、瞳を閉じているからか。
一瞬誰だかわからなかった。
永瀬は、意外なほど綺麗な顔をしていた。
「つか、お前誰よ?何、雪ちゃんと添い寝してんの?」
「俺、ソイツ知ってる…剣道部の1年だろ、なんか全国で優勝したことあるとかなんとかって」
硬派でカッコイイって女どもが騒いでるの見たことある。
そのとき、永瀬が小さく伸びをした。
「あれえ?ごめん、僕まで寝ちゃってた~」
相変わらずボサボサの頭でむくりと起き上がり、近くに放り出されていた眼鏡を手探りで掴み、いつもの永瀬に戻る。
時計を見て、焦っているようでそうでもないようなおっとりした口調で。
「ありゃま、昂平君、午後の講義始まってる!」
昂平は、幾分ホッとしてその場をアタフタと後にした。
いろんな説明をしなくて済んだのと、それから。
一緒に寝ている間、どうやら手を繋いでいたらしいことを、誰にも気づかれる前にその場を離れることができたことに。
どうしてそんなことになったのか、全くわからなかったが。
昂平は、その手をぎゅっと握り締めた。
一体自分に何が起こっているのだろうか。
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