5.厄介事は背負えない人のところにはやってこない

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昂平は一応免許を持っている。 彼の実家は北陸の某県で、地方都市はみんなそうだと思うけれども、車に乗らずに生活できるのは、その地方で1番大きなターミナル駅の、駅前のほんの一部の地区だけだ。 だから、免許が取れる年齢になったとき或いは高校卒業の際の春休みに、だいたいの人が免許を取得する。 ホントはこのあたりも同様に車がないとかなり生活が不便なのだが、車を購入したり維持するお金がないので、もちろん昂平は主に自転車を愛用している。 だから、免許はあるが、運転するのは実家にいたとき以来なわけで。 「どこかに擦ったりしても文句言うなよ」 そう言い捨ててから運転席に座った。 永瀬の車は、昂平にはよく名前のわからないコンパクトでオシャレな外車だった。 そもそも車の運転に慣れていないのに、左ハンドル車である。 ウインカーを出そうとしてワイパーを動かすとか、それなりの失敗はあったものの、距離が近かったのでなんとか無事に永瀬のマンションまで辿り着いた。 「ありがとう昂平君。家に帰れば予備の眼鏡があるはずだから」 とりあえず、慣れない運転で疲れただろうから、うちに上がって少し休んで。 そう言って、永瀬はマンションのエントランスに入って行く。 が、入る前にエントランスの段差に蹴躓き、自動ドアでないガラスの方向に向かって歩いて行きかけて、すんでのところで昂平にキャッチされ、どうやら裸眼は相当目が悪いらしいことがよくわかった。 「アンタよくその視力で運転して帰ろうとか恐ろしいこと思ったな」 「近いし、いつも通ってる道だから大丈夫かと…」 結局、永瀬は、マンション初来訪のはずの昂平に手を引かれて、案内される格好になる。 「ほら、ここだろ」 言われた部屋番号の前まで来て、昂平は永瀬の手を離した。 世話の焼ける大人もいたものである。 ほっとしたように、永瀬は笑った。 「ありがとう、昂平君」 本当に、君、親切だね。
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