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昂平は、顔が自然と赤くなってくるのを感じる。
確かに何回か、永瀬のそんな言葉は聞いた気がするけれど。
いつも何かのどさくさだったので、面と向かってはっきり言われたのはこれが初めてだ。
ましてや、昨日、目の前に立つその人への恋心を自覚したばかりである。
何か言わなければ、と昂平は赤い顔で言葉を詰まらせた。
この人は、彼が兄を好きなのだ、と勘違いしたままだ。
「俺、あの……」
「大丈夫」
優しい柔らかい声が、昂平の出てこない言葉のかわりにそっと囁かれた。
「君が僕を好きになりかけてくれてるのは、わかってる」
なりかけて、じゃなくて、もうなっているのだけれど。
「昨日、電話をくれて、僕の声が聞きたいって言ってくれて、本当に嬉しかったよ?」
だから。
「君がその心にまだ抱いているヒトより、僕のほうを好きになってくれるのを、ちゃんと待ってるから」
ヨシヨシと頭を撫でられて、永瀬のその言葉に反論すべきか迷った挙げ句、昂平は何も言わなかった。
アンタのことのほうがとっくに好きになってる。
ホントはそう言いたかったのだけれども。
言ってしまったら、その後に何が起こるのか、それが怖かったのだ。
だから、卑怯だとは思ったけれども、永瀬のその言葉に甘えることにした。
いや、もしかしたら永瀬は、そんなことも全てわかった上で、昂平に逃げ道を作ってくれたのかもしれない。
「大丈夫だから」
優しい声は、いつもそう言って昂平を温かくくるんでくれるから。
「さ、ご飯食べて、初詣に行こう?」
旧い年が終わりを告げて、新しい年を迎えようとしている今。
堀越昂平にとっても、旧い気持ちにケリをつけて、新しい気持ちが始まろうとしていたのであった。
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