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「君の本は研究室にあるから」
そう言われて、結局、その男が借りた大量の本を半分運んであげながら、昂平は、そいつの研究室に一緒に行く羽目になっていた。
「助かるよー、ちょっと1人で運ぶのは大変かなぁって思ってたから」
いやいや、1人で運んでたら、さっきみたいに前見えないでしょ、アンタ。
初対面でなんなんだけど、馬鹿なのか?
内心そう思いながら、もうじき真夜中になろうとする時間なのに、鼻歌でも歌いそうな軽やかな様子でひょこひょこ歩いていく後ろ姿に着いていく。
着いたところは「永瀬雪晴研究室」と書かれた部屋の前だった。
「誰かに手伝って貰いたくても、もうみんな帰っちゃってたから、ホント助かったよー、ありがとう」
そう言って、へらっと笑う、そいつの首からかかった身分証には、よく見れば「永瀬雪晴」と書いてあるわけで。
「えっ、アンタ教授なの?」
思わずそんな疑問が口に出てしまっても、仕方がないだろう。
だって、目の前に立つその男は、およそ威厳なんてものからはかけ離れたヘラヘラしたヨレヨレの、昂平より多少年上ぐらいにしか見えないのだ。
「やだなぁ、まさか!まだ准教授だよー」
僕、そんなオジサンに見える?まあ、学生の君から見たら、やっぱりオジサンかぁ…
永瀬は相変わらずのんびりとそう言って、研究室のドアを開けた。
「本を持ってきて貰ったお礼と、君の本を持ってきちゃったお詫びに、コーヒーぐらいご馳走するから入って」
本当に調子の狂う男だ、と昂平は思った。
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