第四章 近づく〈塔〉

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 どうして? 何度も拒絶したのに。何度も何度も誘いを断って、拒絶して、もう何週間も接触を絶っていた。東城さんも最近はまったく近づいてこなかった。とっくに終わったはずなのに……! 浅田さんに占ってもらったときだって、ちゃんと終わりを意味する〈死神〉が出て――  違う。〈死神〉が出たのは、私の顕在意識のポジション。だから浅田さんは警告していた。私が勝手に思っているだけで、東城さんに伝わってないなんてこと、ないようにって……。 「さあ、行こうか」  終わったと思っていたのは、私だけ……。  そうだ浅田さん! 助けを求めてさっきのホテルを見たが、そこに浅田と玲子の姿はなかった。 ……ホテルに、入った? 鈍器で頭を殴られたような衝撃を覚えた。以前浅田に東城との不倫を指摘されたときも同じようにショックを覚えたが、あのときよりも、今東城に拉致されそうになっている状況よりも、浅田と玲子がホテルに入ったということの方がショックが大きかった。  東城に肩を抱かれた夏輝は、意識が通わなくなった足で、されるがまま歩き出した。  二人がどうしようと、どうなろうと、私には関係ない。関係ないことなのよ。なのにどうして、こんなに息が苦しいの……。 「近頃全然二人きりになれなかったから、大分焦らされちゃったよ」  浅田さん……。 「前は先約があるからって断られちゃったけど――」  浅田さん、浅田さん、浅田さん……っ。 「今夜は、僕と一緒にいてくれる? 坂井さん」 ――正位置になったな。     
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