第四章 近づく〈塔〉

6/61
前へ
/156ページ
次へ
 こんなときでも、思い出すのは浅田の言葉なのか。〈太陽〉が、〈死神〉が、どれもこれも逆位置で出ていたのに、一つ一つ正位置に戻るたび、浅田は言ってくれた。正位置になったな、と。  それが、私には嬉しかった――  夏輝の足に、意識が通い始める。  浅田の言葉が、励みになっていた。 「……東城さん  東城の流れに逆らうように、歩調を緩める。 「ん? どうしたの」  私は太陽の子、私は太陽の子……。  お前は、太陽の子だ。  浅田さん……! 「東城さん、もう、終わりにしてください……」  さようなら、東城さん。そもそも始まっていたのかすら疑問だったこの関係。今度こそ、何もかも終わりにしたい。今度こそ、堂々と明るい毎日を始めたい。  一瞬の沈黙のあと、東城が口を開いた。 「やだなあ、坂井さん。何言っちゃってんの?」  声音には少し明るい色がまぜ込んである。  これに流されては、またなかったことにされてしまう。〈死神〉がまた、逆位置になってしまう。終わってしまうことよりも、終わりにできないことの方が、こんなにも苦痛だったとは。 「本気で言ってるんです! だからもう、こういうことは――」  夏輝の言葉は途中で止まった。東城が凍てついた視線で夏輝を見下ろしていたから。――ヘビににらまれたようだ。背筋が凍りつき、目を離すことができない。感覚のなくなった手指に力を入れて、拳をつくる。     
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加