第四章 近づく〈塔〉

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 声が、露骨に震える。 『東城と一緒だな?』  浅田の声はいつもより低い。 「何で、知って……」 『探してたんだ。お前、――大丈夫なのか?』 「あ……ええと、ちょっと、ギリギリ……かも」  どうして……、どうしてこんなタイミングで電話なんてしてきたんだこの人は。浅田の声を聞いているだけで泣きそうになる。すがりたい気持ちと、玲子とホテルに消えたことの動揺が、大渦となって夏輝の心を掻き乱す。 『今どこだ』 「どこって言われても……道の名前わからなくて……」 『じゃあビルの名前とか、近くの看板を読み上げろ』  浅田に言われるがまま、夏輝は目の前のホテルを見上げ、看板に記された名前を告げた。同時に東城の片眉がピクリと上がった。 『中に入ったのか?』 「いえ、今はまだ……外に……」 『そこを動くな! 絶対中に入るなよ。今行く!』  通話が切れた。でも東城が怖くてケータイを耳から離せない。本当に、来てくれるだろうか。浅田は玲子と一緒にいるはずなのに。 「誰? 今の」  東城の冷たい声。電話が切れていることはばれているらしい。夏輝は両手でケータイを握りしめた。――誰と言われても、浅田のことを何て説明したらいいのかわからない。 「――まさか彼氏?」     
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