第四章 近づく〈塔〉

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 東城の声が刺さる。 「君もか」  凍てついた目を細めて、射抜くようににらんでいる。その威圧感で、もう唇を動かすことさえできない。そのとき―― 「夏輝!」  ビリビリと空気を震わせる声に、思わず肩が上がった。その声は怒気をはらんでいたのに、聞いた途端、夏輝の本能的な部分がひどく安堵した。 「あ……浅田さ……」  同じ怒られるなら、東城よりも浅田の方が断然いいと思った。 「夏輝ちゃん……」  強張った声――その主は、浅田のすぐ後ろから姿を現した玲子だった。ああ、やっぱりこの二人は一緒にいたのか。私がこんな目に遭ってるときも、やっぱり――。自分でも嫌になるほどの、嫉妬。だけど……。 「玲子さ……っ」  涙でぐちゃぐちゃになりながら、玲子に向かって手を伸ばす。自分でも誰に嫉妬してるのかわからない。浅田が来てくれて心底安堵したし、玲子の顔を見て、やはり同じくらい嬉しかった。 「夏輝ちゃん……!」  夏輝より一瞬遅れて、玲子も手を伸ばした。玲子の声からは、さっきの強張りは消えていた。 「夏輝ちゃん、こっちおいで」  手のぬくもりと同じくらい、声も柔らかかった。玲子さん、玲子さん、と何度も呼びながら泣きついた。     
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