第四章 近づく〈塔〉

11/61
前へ
/156ページ
次へ
「ちょ……っ、ちょっと! 止まって浅田さん! ねえ!」  ずんずんと大股で歩く浅田に手を引かれ、夏輝はほとんど駆け足だ。 「ねえ! 玲子さんのとこ行かなくていいの!? ちょっと!」  引っ張られるがままビル一階部分の通り抜けに連れ込まれると、ようやく浅田の足が止まり、手が離された。夏輝はビルの冷たい壁に寄りかかり、肩で息をした。 「何で……」  何で玲子さんを置いてきたのか。何で私を探していたのか。 「何もされてないか」  目の前で浅田が仁王立ちしている。 「……私のことなんか、浅田さんに関係ないじゃないですかっ」  息がいくらか落ち着いてきた。 「はあっ? 関係ないわけないだろう」 「玲子さんといたくせに何で私のとこに来てんですか! ていうか何で玲子さんを置いてきたんですか!」 「玲子のことはいいんだ」 「何がいいんですか! 玲子さんとホテルに行ってたくせに! 私のことなんかほっとけばいいでしょうっ? バッカじゃないの!」 「行ってねえし! ほっとけるかバカヤロウ!」  夏輝の息が止まり、目が泳ぐ。どっちの話から噛みつくべきかで、不覚にも一瞬つまづいた。 「い……っ、行ったじゃないですか! 私、見たんですから!」     
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加