第四章 近づく〈塔〉

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 浅田が両手で夏輝の顔を包み込み、親指を使って頬を濡らす涙を拭った。 「だいっ……きらい……!」 「そんなこと言うな」 「浅田さんなんか、大っ嫌い!」 「そんなこと言うなって。……謝るから」 「もう本当に嫌いになったから! 私のこと、そんなふうに……っ」  泣き声を止められない。こんな泣き方をするなんて、子供のときのようだ。きっと今は、〈太陽〉の逆位置に違いない。 「俺だって散々疑われたけど、でも俺はお前のこと――」  浅田が言葉を切った。 「……ごめん」  頭を引き寄せられる。縁側で星を見たときのように、強引に押し付けるのではない。ガラス細工でも扱うように、そっと。  浅田が夏輝の頭に頬を当てた。夏輝、と呼ぶ浅田の声が、頭骨に直接響いてくる。 「俺は、お前に泣かれると弱いんだよ」  心底困ったような声だった。 「さっきのは、売り言葉に買い言葉ってやつだ。夏輝が頑張ってたことは、ちゃんとわかってる。でも、勢いに任せて言い過ぎた。……ごめん」  謝られても、夏輝はまだ腹が立っていた。一番頑張っていた部分を、踏みにじられたのだから。     
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