第四章 近づく〈塔〉

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「……無理して謝んなくたっていいですよ。さっきの浅田さんの目、あれ、本気で怒ったんでしょう? 心底私にあきれて、ムカついて、どうせバカな尻軽女だって思ってたんでしょう?」  自分で言ってるうちに、また体の芯が震えるほどの怒りと涙が込み上げてきた。 「違う」 「思ってたから言葉に出たのよ。浅田さんは本当は私のこと、そういう目で見てたのよ……!」 「違う!」 「違わない! タロットで助言しながら、内心私のことなんか思いっきり軽蔑して――」 「ちょっと黙れ!」  声と同時に、夏輝の頭へ触れていた浅田の手に力が入った。この前のときのように、また強引に胸板へ押し付けられた。鼻をしこたまぶつけて痛い。 「俺は……電話でお前の声がひどく怯えてたから、東城がむりやり……どうにかしちまってんじゃないかと思って、本当に……気が気じゃなかったんだよっ」 ――泣いているのかと思うくらい、押し殺した声だった。 「夏輝が頑張ってるのはわかってる! 悪くないのもわかってる! でも夏輝は女で東城は男だ! いざとなったら力じゃどうしたって敵わないんだよ! だから……っ」  だから、と浅田が何度かつぶやく。そのたびに胸板へ押し付ける力が強くなって鼻が痛いし、呼吸がしづらい。たしかに腕力では勝てなさそうだ。――でもさっきの東城の冷たい雰囲気とは違って、浅田のこれは、人としての熱を感じた。     
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