第四章 近づく〈塔〉

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「何で浅田さんとはこんなに付き合いが長いんですか? 浅田さんだって玲子さんのこと、美人だとは思ってんでしょう?」  浅田は口をつぐみ、腕を組んで低いうなり声を発した。 「たしかに初めて見たとき、おっそろしく容姿の整ったやつだなとは思った。でもそれだけだ。顔で恋愛感情を抱いたわけでもないし、むしろこいつ苦労するだろうなと思った」  男なのに玲子さんの容姿にキュンとしないとは何てやつだ。つやっつやのトマトが実ったときの方がキュンとくるんだろうな、この人は。 「だから……お前は信じられないだろうけど、付き合おうって言ってきたのは玲子からだ」 「いやーん! 天地がひっくり返るーっ」  言うと思ったよ、と浅田が苦笑する。 「でもそれは、俺が特別いい男だったとか、そういうことではなく」 「わかってます」 「……お前な」  今度は夏輝が、うーん、とうなる。 「玲子さんは多分、色目ばっかり使う男に辟易してたんじゃないかな。だから浅田さんのそばにいたくなったんだよ。一人の人間として普通に接してくれるから、肩の力を抜けたんだよ」  そう思うと、やはり玲子に浅田は必要なのだ。 「付き合ってはみたが、結局俺らは恋人というよりは、親友とか、きょうだいみたいな感じだったんだよな。お前が期待するような燃え上がる恋愛ではなかった」     
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