第四章 近づく〈塔〉

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 よりを戻したいわけではない。ならあの〈審判〉は何の願掛けだったのか。浅田は、しょうがないな、というふうに眉を軽く上げて大きく息を吐いた。 「あれは、玲子への願掛けだ。今の生活の中で幸せに気づけよっていう、そういう意味だ。〈審判〉には、気づきとか、悟りとか、そういう意味もあるからな。玲子に、お前もそろそろ生まれ変われよって、そういう話をしたから」 「でも玲子さんの方は、よりを戻したいとか少なからず思ってるかもしれな……」 「そりゃねえよ」 「何で言い切れるんですか? タロットで見たんですか?」 「占うまでもなく、玲子にその気がないからだ」  本当に、そうだろうか。 「……何で、別れたんですか?」  浅田が苦笑まじりの息を吐いて、のぞきこんできた。 「今日は随分と俺たちのことを聞くんだな」  ちょっとだけ顔が近くて、ひるむ。 「すみません。どうしても玲子さんのこと知っておきたくて。……でもこんな根掘り葉掘り探って、玲子さんに嫌われちゃうかな」  玲子さん……これからも変わらず、私と会ってくれるだろうか。 「――玲子は」  のしっと頭に何かが乗った。 「夏輝を嫌ったりしねえよ」  それは浅田の大きな手だった。がしがしと夏輝の頭をなでると、浅田は腕組みして大きく息を吸い、止めた。目は天井を見つめ、やがて吸った息をすべて吐き出すと、ぽつりぽつりと語り出した。     
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