第四章 近づく〈塔〉

23/61
前へ
/156ページ
次へ
「俺も玲子も、よりを戻したいとはこれっぽっちも思ってない。それは別れた理由を知れば、お前にも理解できると思う」  ゴクリ、と夏輝ののどが鳴る。 「俺たちが別れた理由は、……改めて何でって聞かれると返答に困るが……。そうだな、まず一つは、お互い親友だとわかったから――かな。一緒に居続けてもいいが、離れてもべつに支障はなかったというか。もう一つは……」  浅田は天井を見つめたまま続けた。 「玲子に好きな男ができた……ような気がしたから」 「気がしたからって……あ、まさかタロットでわかっちゃったとか?」  浅田は何も言わずに天井を見つめている。それがかえって、肯定の意味に思えた。 「その頃にはお互い社会人になってたし。仕事の関係で知り合う男もいるだろ。親友としては、玲子が幸せになるならそれでいいと思った。だから俺の方から、好きなやつがいるなら別れた方がいいだろって切り出した」 「玲子さんは……」 「まさかそこまで読み取られるとは一生の不覚! って顔してたぞ。玲子も打ち明けようって思ってたときに先手打たれたもんだから、余計にな。でも、申し訳ないって顔もしてた。仮にもまだ付き合ってはいたわけだから」 「それで……別れたんですか」     
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加