第一章 目隠しは誰がした?

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 ベッドから降りた浅田の気配が近づく。夏輝の視界に、裸足の大きな両足が入った。のしっと頭に浅田の手が乗り、わしづかみにされている。何事かと焦ったが、どうやら夏輝の頭を握りつぶそうとしたのではなく、のしのしと何度か手を乗せることを繰り返し、最後はくしゃくしゃと髪を掻き乱された。 ……頭、なでてるつもりなの? もしかしてこの人、私のこと慰めてる? そうと気づくのに、しばし時間がかかった。 「片思いを成就させたいって話じゃないことはわかった。それでもお前の望みはあるはずだ。もっと視点を高くしろ。お前は今の状況を、どうしたい?」  今までと違って、粗熱が取れた声だった。  今の自分は、濃い霧が立ち込める中にいる。どっちに行きたいのか、自分のことだというのにわからない。霧の中で迷っている自分から、幽体離脱するように視点だけを高い位置へ持っていく。そこから見下ろす自分は、とても小さい。  前方を見れば、霧の垣根はなくなり、道が見える。その道はどこへ続く道なのかわかりはしない。それでも、道があることだけはわかる。  しかし霧の中で迷っている自分は、その道がすぐ近くにあることすら気づくことができない。 「浅田さん、私……」  今のままではいけない。何も見えていない。進む方向もわかっていない。 「早く自分の気持ちをはっきりさせたい」  想い続けるのか、やめるのか。 「私の、この迷いを晴らすには、どうしたらいいですか?」  早く霧の中の自分に教えてあげたい。あなたの進む道はこっちよ、と。     
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