第四章 近づく〈塔〉

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「〈塔〉は上手く破壊されれば、それまでの問題を一掃して新しくやり直すチャンスとも言える。そんなに気にすんなよ」  テーブルに突っ伏したままの夏輝に、浅田がコーヒーの入ったマグカップを置いた。 「おい、大丈夫か?」  いい香りに癒されるはずが、今はまったく立ち直れない。 「玲子さんが……東城さんの、奥さん……? うそ、だって、名字違うじゃない」  玲子の名字は葉月だ。 「職場ではな。入籍はしてるから、玲子も法的には東城だ。式は挙げてないから、多分玲子の同僚たちも既婚者だって知ってるやつは少ないんじゃないかな」 「どうしよう……私、東城さんの名前出して相談してたのに……」  東城とのことを相談したとき、玲子はどれだけの屈辱を感じただろうか。どれだけの裏切りを玲子に与えてしまっただろうか。突っ伏したまま、自己嫌悪に襲われる。 「あんまり慰めにならないけど、あのダンナは昔からそういうとこあるから玲子もわかってる。彼氏持ちには興味ないらしいが、フリーで自分に気があると思えば手を出すらしい」  だとしたら夏輝は、格好の餌食だったわけだ。     
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