第四章 近づく〈塔〉

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「もう忘れてそれーっ! ていうか何で浅田さん教えてくれなかったのよバカーっ!」 「それは……、夏輝が知らないみたいだったから、さすがに言い出せなくてな。夏輝が知る前に、玲子を通してダンナを引かせようと思ったんだが……。悪かったよ」  突っ伏したままの夏輝の頭に、浅田の手が触れた。驚いて、そのまま動かずに黙っていたら、あやすようにぽんぽん、と軽く叩いたりなでたりしている。 「一つ、聞いていいか?」 「……何ですか」  浅田の手がまだ触れていて、落ち着かない。 「夏輝は、俺といる玲子が嫌だったのか? それとも、玲子といる俺が嫌だったのか?」  え、と思わず少しだけ顔を上げる。浅田は静かに手を戻し、まじめな顔をして見つめていた。 「……そんなの、カードに聞いたらどうですか」  にわかに緊張し、顔を背ける。 「お前なあ。目の前に夏輝がいて、夏輝のことを聞くのに、わざわざカードに聞くのか? そんなの直接本人に聞けばいいだけの話だろ」 「そりゃそうなんですけど……」  こっちは直接聞かれたくないから言っているのだ。 「――俺は、玲子が東城の妻になったときよりも、お前が東城となんかあったらって思ったときの方が、すっげぇ嫌だったぞ」 「え、あの……」  それはどういう――。また変な汗が出てくる。     
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