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いつものバーで玲子と会うことになったその日。店のドアを開ける音も、店員の声も、夏輝の耳には入ってこなかった。あれだけ息巻いていたものの、いざとなると顔を合わせづらい。
どんな顔して会ったらいいのか。東城の妻とわかった上で、玲子とどう接したらいいのか。前に浅田が言っていた。「相手の奥さんともめて、破局」と。ただ破局を迎えるのは、東城とではなく、玲子との関係のようだが。
そんな運命には絶対にさせない。
玲子は小振りの丸テーブルの席にいた。いつものようにマルガリータが置いてあるが、グラスの縁まで注がれたままで、一口分も減っていない。
テーブルへ近づくと、顔を上げた玲子と目が合った。玲子がすぐさま立ち上がる。
「――ごめんなさい」
いきなり、玲子が深く頭を下げた。
「や、やだ玲子さんっ。まず座りましょ」
玲子の行動に驚いて、周りの目を気にしながら席へ座る。――ようやく、いつものバーの騒がしさが夏輝の耳に届いた。
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